「この世の果てぇ〜もぉ〜、時間の壁でも〜♪」
「ミラクル生まれのプリプリ育ちで♪」
「こ〜えて〜くぅ〜!」
『ううおおおぉーーーーっっなっちいぃ〜〜〜っ!好きだぁーー!』『まいティこっち向いてくれえぇーーーっっ!』 『ミキた〜〜〜んっ完璧スマイルほしいっスーーーっっ!』 『うららちゃん愛してるぅ〜〜〜っvvv』 『ノゾミ〜ル笑顔きゃあぁわいいぃーーーっっ!』 『ひびきぃーーっっ!セクシーだぞぉおーーーっ』『奏ちゃんオレをケーキにしてくれええぇ〜〜〜っっvvv』 『ラブちゃんオレにキミのLoveをくれええぇーーーっっ!』
4万人収容の巨大ドーム、東京お台場に新世紀2001年元年に設立された日本卑出武道館(にっぽんひでぶどうかん)には、満員御礼。オタクのお兄さん方を筆頭とする観客の脅威の熱気で初夏なのに正に真夏の熱気を有していた。
ステージ上で歌って踊る少女達、彼女らのパフォーマンスが今フィナーレを迎えようとしていたからである。
『パワフル可愛い〜♪』
『ガンバルーGIRLS〜♪』
『あ・ぶない!ぜっ・たい!まけない!』
「プ・リ・キュア・も・お・ど・に!」
『DADADADA!スイッチオン!♪イエイ!!』
『ほのかあぁーーーーっっ結婚してくれえぇーーっ』 『りんちゃん握手してええぇ〜〜〜っっ!』 『つぼみぃ〜〜っっ!可愛いぃ〜〜っ』 『えりかあぁーーっっオレの嫁になってくれえぇ〜〜っっ!』 『いつきちゃん!オレの愛をうけとってえぇ〜〜!』 『ゆりちゃんオレをメガネにしてくれええぇ〜〜〜♪ww』 『せっちゃあぁ〜〜〜んっっ♪♪オレも精一杯頑張るからデートしてええぇーーーvv』 『アコぉ〜〜vvお兄ちゃんが一緒にねんねしてあげるぞおぉぉーーー♪』
正に児童ポルノギリギリの歓声まで飛んでいるこの会場、一体何が起こったのか?
今日は、PCA21の3回目の武道館公演。秋葉原の小さな劇場からスタートしたこの女子中学生を中心とした新世代アイドルは、今や社会現象ともいえる人気を博し、大きな武道館で定期的なコンサートを開けるまでになっていた。
キモオタに祭り上げられた色気のない幼女集団、オタクを癒す日本の不良娘たち、との心無い批判の声もあるが、それでも一生懸命頑張ってこれだけの支持を集めるまでになったのだ。
舞台袖で見ているマネージャーの藤田麻美耶や、松風麗奈はこう言った大きなコンサートを立派にこなすようになったメンバー達を見ると、いつも涙ぐむ。
練習が辛いと弱音を吐く時もあった。ハメを外し過ぎてスキャンダルになったことも・・・。悪ふざけが過ぎたり、出来心からイタズラをして週刊誌にすっぱ抜かれそうになったこともある。
心を鬼にしてお尻を叩き、たくさんたくさん泣かせたこともあった。「痛い」「やだ」「やめて」と泣き喚く子達の小さなお尻をぶつのがたまらなく辛い時もあったが、そのおかげでこんなに多くのお客さんの前で踊って歌うことができる。
「みなさーん!今日は、ホントにありがとうございまーす!みなさんの応援が、わたし達みんなのパワーになってます!本当にありがとうございました、それでは最後の曲、ありがとうがいっぱい、聞いてください!」
リーダー美墨なぎさの言葉に、会場の盛り上がりは最高潮に達する。
そのまま少女達は最後の演目に移った。
「マミヤ、よかったな。今回も大成功で」
「あ!ベラ帰ってたのね!」
マミヤたちの前に姿を現したのは、PCAが結成当時から五車プロモーションで社長秘書として働いている戸田紅羅(とだべら)だった。マミヤとは大学が同期で昔から友人として仲良くしているが仕事の上では先輩にあたり、今マネージャーとして敏腕を訊かせているマミヤも色々と頼りにしている。
緑いろの髪に少し片目が隠れた、少々気の強い感じを受ける美人だ。
実はこのベラ、つい昨日まで長期の出張で留守にしていたが、マミヤ達のように五車プロモーションの社員であると同時に愛治学園の教師でもあり、教科は国語・古文を担当している。
「見に来てくれたの?」
「あのじゃじゃ馬っ子たちがどんなステージをしてるのか気になってね・・中々イイステージじゃないか。お客にも盛興のようだし、よく頑張ってるな」
「ええ。あのコ達も、なんだかんだいいながらレッスンガンバって来たから」
「オレもそこでばったりベラさんにあってよ。ちょっと案内させてもらったんだよ」
ベラの後ろからタオルを首に巻いた難波伐斗(なんばばっと)が笑いながら登場する。
「レイナさんもご苦労だったな、よかったじゃねえかみんな成功して・・・」
「ええ、ホントに・・先輩も頑張ってましたもんね!ベラさんも、ゆっくり見ていってくださいね」
笑顔でそう言うマミヤとレイナに、ベラもまた、優しい笑みでステージ上の教え子たちを見守っていた。
『Thank You for All Thank You for All ♪ ありがとうが♪いーっぱい〜♪』
「あ〜あ、イルクーボくんでもダメだったかぁ〜・・次は誰にしよっかなぁ〜?ねえ、どーしましょージャギさん・・」
「答えは簡単だぁ・・その・・なんだ?誰だっけ失敗したの」
「イルクーボくんです」
「そぉうだ!そのイルクーボとかいうヤツより強いヤツを連れてくりゃいいんだろうがよ!ホレ、裏とったぜ!」
「う〜〜ん・・でもイルクーボくんてウチの会社の中でもなかなか強豪の方なんですよねえ・・じゃ、私ココもらいますね」
「ほほう、まだ粘るか・・んじゃあ、八方ふさがりじゃねえか。どうすんだ?・・・よし!こぉこだ!見ろ、真黒にしてやったぜ」
「うぅ〜ん、ですよねぇ〜・・ザケンナー部隊はもういないかも・・・じゃ、ここで四隅もらいますね」
「ああぁっ!全部白になってゆくぅ〜っ、おのれぇ〜・・おい!そこのお前!何か言ったらどうだ!?」
「そうだぞオリヴィエ。父さん達が大事な話で悩んでるのに、さっきから知らんぷりなんて冷たいじゃないか」
「・・・その大事な話って言うのはオセロで遊びながらできるもんなの?」
話を振られたオリヴィエは、目の前でオセロを楽しむ父と、ヘルメット姿のヘンなオッサンに冷静につっこんだ。
ここは、悪の組織、ワルサーシヨッカーの本社ビル・社長室
社長子息のオリヴィエは父の仕事場でまたも無茶な質問を投げつけられていた。一体自分はこの会社のなんなのか?社長はあくまで父であって、自分は関係ない。そもそもまだ子どものオリヴィエからしてみれば自分はとっとと家に帰って宿題なりショッピングなりやりたいことをやりたいのに父が「寂しいから〜」とよくわからない事を抜かすからしぶしぶ来てやってるだけなのだ。
なのに、プリキュアを倒すための知恵を貸せとこんどはせがんでくるし、その当の本人たちは目の前でオセロの真っ最中だ。責任があるのは彼らのハズなのに不謹慎不真面目極まりない。
オリヴィエは溜息を深々とついた。このヒトたちはもしかしたらやる気ないのかな?そう思った時に、父が突然叫びだした!
「あ!そーだ!まだ上別府サーキュラスくんたちザケンナー三部長がいたっけ!彼らなら大丈夫かもしんない!よーし、ジャギさん、早速彼らに仕事の依頼にいきましょう!」
「まてサラマンダー!あと一回!一回でいいから勝負〜〜・・・」
急に思い立ったように席を慌ただしく立ったサラマンダー藤原はそのまま部屋の外へ駆け出し、オセロに負け続けたジャギさんはその後をついていってしまった。あとに残されたのはオリヴィエ1人だけ。
「・・・・・・今日はもう・・・本気で帰ろう」
「あー!ベラ先生がいるー」
「ホントだ!帰って来たのよ!おかえりなさい!どうしたんです先生、もしかしてアタシ達の応援に来てくれたの?」
コンサートが終わり、衣装を着替えて控室から出てきたプリキュアメンバー達を、軽く手を振りながら、ベラは笑顔で迎えた。久しぶりのベラ先生の姿を見て、美々野くるみと美翔舞の2人が驚いたように声をあげた。
「ちゃんとみんな先生たちの言うことを聞いてイイコで頑張っているかと心配になったのさ。そうそう、明後日からは私も学園の方に復帰するからな。出張も終わったとこだし・・・」
「え?復帰しちゃう・・の?」
「せ・・センセー、もうちょっと休んだ方がよくない?」
「そ・・そうそう!体大事にしないと・・・ちょっとと言わずもうずぅ〜っとお休みしちゃってれば・・・」
「・・・のぞみ、ラブ、それにえりか。私がいない間に随分勉強を怠けていたようだな。マミヤにアナタ達の成績を聞かせてもらったよ。ベラ先生が復帰するからには、もうそんな怠けは許さないからね・・もし怠けたりしたら・・・どうなるかはわかってるだろ?」
そうベラに鋭い視線で睨まれると、夢原のぞみ、桃園ラブ、来海えりかの3人はひいっと顔をひきつらせてお尻を抑えるとそそくさと逃げ出した。
「ベラったら、相変わらずね。そんなに脅してばかりだと嫌われちゃうわよ?」
「お前達、ちゃんとあのコ達の生活態度を見てたのか?響やえりか、のぞみなんかの成績・・ちょっとヒドイよこれは」
「ああ、ウチのメンバー、成績イイ子と悪い子スゴイ差がありますから・・・」
「そう言う問題じゃないだろ全く・・学生として最低限恥ずかしくない成績をとらせるのも、教育係としては必要なことだろう全く・・・」
そう言いながらプリキュアメンバーの成績表を見るベラは溜息を漏らした。
悪いコトは許さないPCAマネージャーのマミヤやレイナも成績の良し悪しに関しては割と寛容な方だ。だが、ベラはそうではない。
お勉強を怠けて成績が悪いコにはキッチリとした躾をするタイプなのだ。先程のぞみ達が怯えて、学校を休んだ方がいいとベラに言っていたのはこのためだった。これからはイタズラだけでなく、お勉強を怠けてもお尻をぶたれるかもしれないからだ。
「とにかく、今後のPCAと学園のスケジュールは今週中に会社と学園側に相談して定めてみる。それまで頼んだよ。そう言えばサクヤはどうした?」
「ああ、サクヤね。確か今はニューヨークで研修中みたいだけど・・・レイナ、彼女からなんか連絡ある?」
「ええ、つい昨日入りました。もう後2週間で帰ってくるみたいですよ」
今3人が話しているのは木村咲夜(きむらさくや)というもう1人のPCA女性スタッフのことである。その彼女もレイナと同じ時期くらいに学園に赴任し、同じくマミヤに誘われる形でPCAの衣装スタッフ兼教育係になった。現在はニューヨークに研修中でファッションの勉強をしている。
実にこの4人の女性が、PCA21の少女達を日々指導し、教育し、躾も行っているマネージャー兼世話係のスタッフなのである。
まだまだ中学生になったばかり、中には小学生の子どもすらいるプリキュア戦士のお嬢さま方の行く末を案じて社長である青野李伯(あおのりはく)が打ち出した育成論だった。
「マミヤ、今日の仕事は以上か?ならば帰ってもよいか?」
「あ、ケン。そうね、いいわよお疲れ様。明日もよろしくね」
「うむ」
「おや、ケンシロウじゃないか!久しぶりだな。どうしてこんな所に?」
「む?お前は蘭山紅拳(らんざんくれないけん)のベラ」
「ああ、ベラ説明が遅れてゴメンナサイ。しばらく前からケンもウチのスタッフとして働いてもらっているの」
仕事終りにマミヤに声を掛けてきたケンシロウを見て、ベラが驚いたように言ったので、マミヤは簡単に説明する。ベラとケンシロウも旧知のなかである。同じ拳法家として、圧倒的な強さを持つケンシロウに蘭山紅拳の伝承者でもあるベラは憧れを抱いていた。
「ケンシロウ、学校の仕事の方はどうなんだ?」
「ただいまパソコンを何台か壊してしまったので謹慎中となってしまってな・・・切実に金が無いのだ」※第一話参照。
「え?き・・謹慎?」
「ついにケンが只ならぬキケン人物と認識されはじめちまったってコトですよ・・・」
バットが軽く耳打ちすると、ベラも流石に冷や汗混じりになって話題を変え、場を和ませようとする。
「そ・・そう・・ラオウは元気?」
「ああ、ヤツはこの世の覇を唱えるべく建設現場の王、建王と名乗り覇業に乗り出している」
「・・・・・・た・・タイヘンね、ト・・トキは?それに・・ジャギも」
「トキは病を押して、傾きかけた接骨院を経営し、かけ持ちのバイトを探している・・・ジャギの居所はわからん。相変わらず悪の道に進んでいるようだ・・・」
「ベラさん・・もうこれ以上ケンの兄弟について聞くのやめよう。どんどん常識から逸脱した方向へすすんでいってる・・・。」
「・・・そ、そうだな」
バットから耳打ちされたベラはケンシロウの口から語られる北斗四兄弟の世知辛き新世紀の生き方に冷や汗をかき、これ以上聞き出すのをやめた。
どうやら平和な新世紀は世紀末の拳士達には過酷な環境らしい。
しかし、ケンシロウが荷物をまとめて帰ろうとしたところに、突然助けを求める声が飛んできた。
「助けて!ケーーーンっ!」
「あなたの力が必要なの、お願い助けてケン!!」
PCAの控室に駆け込んで来た2つの影。
「む?リン、それにユリア!」
「あ〜!リンさんにユリアさんだぁーっ」
入って来たのはプリキュアメンバーの先輩にあたる冨永鈴(とみながりん)とサザンクロスプロモーションの山本由利亜(やまもとゆりあ)の2人だった。双方ケンシロウの胸に飛びついている。
「ちょっとユリアさん!今はわたしがケンと話してるんだから余計なコト言わないでくださいっ!」
「なによ?もともとケンは私の運命の人よ。アナタこそどいたら?目ざわりなんですけど?」
「あ〜ら、残念。おばさんにはわたしみたいな若いパワーが眩しすぎたかしら?ゴメンなさいね年のコト考えられなくて♪」
「はあ!?ガキがナマ言ってんじゃないわよ!」
ところが入ってくるなりそんな感じで喧嘩を始めてしまったユリアとリン。ケンシロウにしても戸惑っているし、周りのPCAメンバーたちなどはもっと混乱している。
バットはひとまず2人を落ち着かせてからゆっくりと事情を聞いてみることにした。
「と、とにかくユリアさんもリンちゃんも落ち着いて。周りの子たちも何が何だかわからないって感じだし、ちゃんと事情を説明して、一体2人ともどうしてココに?ケンに何の用があってきたんだい?」
「それがね」
「実は・・・」
ようやく多少落ち着いて2人が語った理由はこうだった。
なんと今、ユリアとリンが共演しているドラマのアクションシーンで、出演予定のアクション俳優が急病のために来られなくなったそうだ。
そのアクションシーンはドラマの重要なクライマックスシーンでもあるため、飛ばして撮影することもできず、他の日に回している時間もないという。
困り果てた監督に、ユリアとリンはふと思い出したケンシロウの存在を話したところ、監督は嬉々としてその話を承諾したのだという。それで、急遽出演女優のリンとユリアが我先にと競ってケンシロウをヘッドハンティングに来たということだ。
「ね、いいアイデアでしょ?バット」
「え?・・あぁ〜・・そう・・だね・・・いや・・大丈夫か?」
自信満々のリンにバットは首をかしげながらしどろもどろに答える。確かにアクション役としてケンシロウは能力的には十分すぎる者を持っている。特撮技術なんぞそれこそいらないくらいに・・・。
しかしいかんせん、北斗神拳そのもののレベルが人知の及ぶ範疇(はんちゅう)ではない気がしたのだ。下手をすればドラマそのものがオジャンになりかねない。
「ケン、やってくれるかしら?」
「ああ、俺で役に立てるのならかまわん」
「よかったぁ〜・・それと・・・もう1人、この中からアクションシーンの相手役の格闘少女をスカウトしたいんだけど・・・誰かやってみたい子、自身ある子いる?」
「格闘少女ってコトは・・・誰かと戦うの?リン先輩」
「そうよ、特撮使うけど格闘シーンだから運動能力のあるコなんかいいわね。なっち、どう?やってみる?」
「あ、アタシパス!悪いケド格闘シーンってなんか色々メンドくさい気がしちゃって・・・」
「わたしもちょっと自信ないナリ〜」
「あたしもサッカーとかならいいんだけど・・・」
「アタシは・・・ちょっとやってみたい気もするけどムズカシイのかな?」
美墨なぎさ、日向咲、夏木りん、北条響がそれぞれ自分の好みを口々に言い合う。そんな単純な話か?とマミヤとベラはやれやれという感じで首を振ったがそんな時、1人、遅れながらおずおずと手を上げた女の子がいた。
「ぼく・・・やってみても・・いいかも」
「?あら、いつき?」
意外な声。それはチームハートキャッチに在籍する明堂院(みょうどういん)いつきだった。
この声にマミヤは当然、ベラやレイナも驚いた。真面目で賢く、どんなコトにでも機敏に対応できるしっかりした性格の子ではあったが、つぼみと同じく少々消極的な面も持ち合わせており、ことアイドルや芸能面での仕事では自ら率先して新しいコトにチャレンジしようという気概の持ち主には見えなかったからだ。
「いつきちゃん、やってくれるの?」
「ぼく・・少し武道の心得がありますから・・」
「あ〜〜!そだそだ!いつきって明堂院流って武術習ってるんだよねお兄さんと!」
えりかの言葉にいつきは少し顔を赤らめながらコクリと頷いた。
「お兄さまも病気が治って明堂院流の修業により熱心に打ちこんでいるし・・ぼくもちょっと新しいコトに挑戦しよっかなって・・おかしいかな?マミヤ先生」
そんないつきの勇気を振り絞った答えにマミヤは笑顔で首を振った。
「そんなことないわ。何かを始めようとするのはとっても大事なことよ。じゃあいつき、お願いできるかしら?」
「・・・ハイ!リンさん、ユリアさん、よろしくお願いします。霞先生もよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくねいつきちゃん♪」
「助かるわぁ〜vホントにありがとうね」
「・・・うむ。では行くか・・・いざ!戦場の荒野にっ!!」
そう決意に満ちて言うケンシロウ先生の言葉に、その場の全員が心の中で激しく突っ込んだ。
《戦場にも荒野にもいかねえしっっ!!!!》
「ふん!お台場か。くだらぬな」
所変わってお台場駅前、PCAが公園を行っていたドームに向かうバス停の前で、1人の男性がそう呟いた。
もう初夏の汗ばむ季節だというのに暑苦しいブロンドの長髪、筋骨逞しい肉体と長身に鎧、何の酔狂か下にはマントまで着込んでいる。その異形に周囲の人々はひそひそと内緒話をしていた。
この男、名を上別府(びふ)サーキュラスという。
ワルサーシヨッカー、ドツクゾーン部門、ザケンナー部隊の3部長と言われる所謂出世コースのエリートサラリーマンだが、悪の秘密結社の社員であるためその洋装は完璧にコスプレ好きのヘンなおっさんそのものである。
彼は今、社長であるサラマンダー藤原の勅命によってココに来ている。彼らの会社に仇名す正義の魔法少女戦士、PCA21、プリキュアオールスター21を駆逐するためにやって来たのだ。
「社長からの直々のご命令・・・身が引き締まる思いだ。是非に期待に答えねば・・」
回想
{サーキュラスくん!プリキュアのお嬢さま達をもう・・ぎゅ〜ぎゅ〜のふにゃんふにゃんにしちゃって、え〜ん、コワイワルサーシヨッカーのおじさま達、ゴメンナサイもうしませ〜んっ・・と泣いちゃうくらいに我らの力を思い知らせてやるのだぁー!でなきゃキミもティッシュ配りだかんなーっ!ねえジャギさん!}
{その通りだぁー、悪の身の毛もよだつ常人卒倒必死の世にも恐ろしいティッシュ配りの極意をこの俺が伝授するコトになるぞぉ〜?ところでお前・・・俺の名を言ってみろぉおぉーーーーっっ!!}
サーキュラスくん回想終り。
「・・・・ぎゅ〜ぎゅ〜のふにゃんふにゃんとは・・・一体どんな状態だ?」
「やあ!キミがケンシロウくんだね、助かるよホント!」
「む?お前は・・確かラオウの現場の・・・」
「ええ?私のコト知ってるの?」
「ああっ!ブンビーさんじゃないですか!どうしたんですこんなとこで」
撮影所に連れて行かれたいつきたちを迎えたのは、ブンビーカンパニーの社長で、元々プリキュアメンバーとは対立するワルサ―シヨッカーで部長を務めていた文尾渉(ぶんびわたる)だった。いつきが声を上げるとブンビーは破顔して得意気に話し始めた。
「いや〜我がブンビーカンパニーも人気がまた上昇しちゃってねえ〜、なんとだ!今人気沸騰中のアクションドラマ!特命係長代理・稀野人新(とくめいかかりちょうだいり・まれのひとしん)の公式スポンサーになっちゃって、今日は監督に特別に撮影所に招待してもらったんだよ」
「そ・・・そうだったんですか・・確か、主演はモデルで俳優の塩沢麗さんですよね?」
「そうなんだよ!しかぁ〜し!稀野役の俳優さん、塩沢麗(しおざわれい)さんがきゅう〜に、妹が急病になった!とか何とか言ってそばにいなきゃダメだから今日の撮影には来られないとか言われちゃってさあ・・・途方にくれてた所にユリアさんからケンシロウさんのことを聞いて、こうして来てもらったわけなんだよ」
「ええ〜〜っ!?びっ・・病気って・・レイさんじゃなくって妹さんなんですか?」
「ああ。しかもただの風邪らしいのにさ・・風邪をこじらせたら大変だからすぐに病院に行くって・・・」
その話にどんだけのシスコンだよ!と思い、いつきは「その人無責任だと思うなぁ!」と顔を膨らませた。
「レイが俳優?それは初耳だ。というコトは・・・急病はアイリか?」
「まあ・・・彼の性格ならそうでしょうね・・・」
「って、マミヤ先生その人知ってるんですか!?」
「えぇ?・・そ、そうね・・し、知ってるわ・・・よく・・・」
「うむ。誰よりも妹の身を案じている男だ。南斗水鳥拳の伝承者でもある俺の強敵(とも)の一人だ」
なんかよくわからない設定がまた出てきたが、ともかくケンシロウとマミヤの知り合いらしいそのレイという俳優は来られないようになったので、違う役で代役をして次週、稀野の活躍につなげようと言う苦肉の策だった。
さっそく監督が呼ばれ、説明を受けるいつきとケンシロウ。
「え〜っと・・・じゃあ、いつきちゃんの出番から、ヤクザにさらわれたリンちゃん演じるカリンがなんとか脱出を試みようとしたところに、颯爽といつきちゃん演じるサクラが登場!サクラがヤクザを相手に大立ち回りを演じて辛くも勝利し、2人で逃げようとしたところに・・今度はケンシロウさんが演るヤクザの親玉、ニシキヤマが登場!圧倒的な力でサクラが残念にもやられてしまいあわや絶体絶命!というところを撮ります。後は次回に・・・ユリアさんが演じるミズキを抱きかかえてレイさん演じる稀野が颯爽と登場というとこまで繋げたいので、なんとかよろしくおねがいします!」
「ハイ!」
「ああ」
「いちゅき〜がんばるでしゅ〜!ぽぷりがついてるでしゅぅ〜っ」
監督の説明に元気よく答えるいつきに、少し離れた所からいつきのパートナー妖精であるぽぷりが声を上げた。
その声に周りの人眼を気にしてマミヤや一緒について来たプリキュアメンバーがぽぷりの口元を慌てて抑える。
「だっ・・ダメでしょポプリちゃん!静かにしてないとぬいぐるみじゃない事がバレちゃうわよ!」
「そうですよポプリ、みんなビックリしちゃいます!」
「大体、アンタはいっつも周りのジョーキョー考えないんだから・・静かにしてるって条件でアンタも連れてきたんだからね」
「そうだよ、バレちゃったらタイヘンなんだから!」
「ポプリ、ちゃんとマミヤ先生やつぼみたちの言うコト聞かなきゃダメですぅ」
「そうです!じゃないともう連れてきてもらえませんよ?」
「まあ、そういいなや、ポプリ、あんさんもサンシャインはんが心配やっさかいついてきてんやろ?無理ないわな」
えりかや、チームフレッシュの桃園ラブ、それに妖精のシプレ、コフレ、タルトも口々にポプリに注意するため、ポプリはぷうっとふくれっ面をして「みんないぢわるでしゅっ」と呟いた。
「それじゃあ、シーンの撮影行きます!ハイ、本番ヨーイ・・アクションっ!」
監督の声とともにカン!というカードの合わさる音が響き、いざ、いつきが迷うリン役の少女を救うシーンがはじまった。
「ああ!一刻も早くここから逃げなきゃ、でもどうすれば・・?」
「心配無用!助けに来ました!カリンさんですね」
「あ、あなたは!?」
「わたしはサクラ、人呼んで天才空手少女サクラ!さあ、こんな所に長居は無用です。わたしについてきて下さい!いっしょにでましょう!」
「まぁちやがれえ!そいつは俺達の大事な人質だあ!どこに連れてこうってんだ」
「妙なマネしやがっていい度胸だなお穣ちゃん、おうっオメエらやっちめえ!」
「出たな悪党!正義の鉄拳を受けろ!やあーーーっ」
「へぇ〜〜・・」
「ほぉ〜〜・・」
「ふあぁ〜・・いつきちゃん・・上手!」
「いちゅきすごいでしゅぅ〜っ♪」
「カッコイイですぅ〜v」
「本物のアクションスターみたいです!」
「まさかここまでサンシャインはんがアクション上手やなんて・・ワイも知らんかったでぇ・・」
カリンを助けてからヤクザ者との死闘を描く迫真の演技。
プリキュアメンバーや妖精たちはもとよりマミヤやブンビーたちもいつきの演技に小々驚いた。いつきの実家が武道の家元であるから多少の格闘技はできるとは思っていたが、アクション演技をやらせてもまさかこれほどとは、と大立ち回りを演じるいつきに度肝を抜かれた。まるで本職のアクションスターさながらである。
やはりプリキュアであることもその出来に拍車をかけているのであろうが、そんなコトは知らない監督はメガホン片手に興奮しまくっていた。
「いいねいいねえっ!スゴイよあのコ!レイくんと比べてもそんなに変わらないんじゃないかな?よーし!カーット!一旦休憩入れたら、次のシーン行ってみよう」
拍子木が打たれ、ブレイクが入る。
タオルを片手にいつきは「ふう」と息をつくとイスに腰掛けた。
「スゴイじゃないですかいつき!わたし、感動しちゃいました!」
「さっすが明堂院流のお嬢さま!よっ!ニクイよ千両役者!」
「アタシたちさっきから興奮しっぱなしだったんだからv」
「あ・・ありがとう・・初めてなもんだから・・一生懸命やろうとして・・・・緊張してたんだけどね」
「そんなところ気付かなかったわ。よく頑張ってたわよ、うん!いい演技だったわ」
つぼみやえりかやラブだけでなく、マミヤからも褒められたいつきはパアッと顔を明るくさせて、ニッコリ。とびきりの笑顔になった。
「次のシーンもよろしくねいつきちゃん」
「期待してるわよ!PCAから新たな名女優の誕生ねv」
「あ・・ありがとうございます!僕・・がんばりますっ!」
リンやユリアからも笑顔で励まされて、いつきは頭を下げた。勇気をだしてこの仕事を請けて・・本当によかった。
今か今かと撮影の再開を待っていたそんないつきの元に、スタッフからある手紙が届けられた。
「いつきちゃん、お届けものですよ。ファンの方からファンレターです」
「え?僕に?」
なんだろうと思い、受け取って早速封を開ける、するとそこには・・・
「う・・わぁv」
手紙と一緒に写真が揃えられていた。それはいつきの大好きな今大人気の携帯ゲームの可愛いマスコットキャラたち。そして手紙には簡潔な文体でこうかかれていた。
《明堂院いつきさま いつもテレビで活躍を拝見しています。この度ドラマにもご出演とのこと、ファンとして嬉しい限りです。つきましては同封している写真に写っているぬいぐるみ一式を差し上げたいと思いますので、地下駐車場までお越し下さい。》
「う、ウソ!?これ・・コレ全部限定品ですごく入手困難なモノばかりじゃないっ!一式全部・・僕にプレゼントぉ!?」
可愛い物に目が無いいつきは矢も盾もたまらず喜んで地下パーキングに向かって駆け出した。
しかしそこにいつもの冷静で落ち着きのある彼女の姿はなかった。まず、なぜ急に今日になって飛び込んできたドラマ出演の話をもうファンが知っているのか?
今、撮影が始まるこの状況で飛び出していけばドラマの現場がどうなるか?
PCAの規則、「ファンからの物でも先生の許可なく勝手に開けてはいけない」という決まりを破ればどうなるか?
普段の彼女なら様々な点から考察して早急な行動にはでなかっただろう。
しかし、ほんの1年程前まで病気を抱える兄にかわり、明堂院流の宗家の娘として武術に励むため、ワザと男装し、男の子のような態度をとってきていたいつきはその反動でとにかく可愛いぬいぐるみやアクセサリーに目が無い。
周りの物が見えなくなってしまうほど大好きなのだ。そんな彼女の行動や性格を知り尽くしている先生や仲間以外の誰か・・・
思えばこの時点で気付くべきだったのかもしれない。
「ハイ!では撮影再開しまーす・・って、アレ?オイ、いつきちゃんドコ行った?」
「あ!ホントだ、さっきまでそこに座ってたハズなんスけどねえ〜」
「おかしいな、オーイ!いつきちゃんドコ行っちゃったのぉ〜?」
いつきがいないことに気付いた現場スタッフ。状況は楽屋でユリア達と話していたマミヤやつぼみ達にも伝わり、辺りは騒然となった。
「いつきぃ〜おへんじするでしゅう〜」
「いつきー、どこですかぁ〜?」
「どこいっちゃったんだろぉ〜?ねえラブちゃん、なんか知らない?」
「さあ・・・アタシもみんなと一緒にいたから・・・オーイ!いつきちゃ〜ん!」
「全く・・あのコったら、一体こんな急にどこにいっちゃったのかしら?」
マミヤが周りを見渡しながら溜息交じりに一言言った。
トイレにしては長すぎるし、何よりドラマの撮影を放棄するほどひどい演技をしていたわけではない、むしろ監督はいつきの演技に絶賛の声を上げている。一体どうしたのだろうか?
「おや?どうしたんだい撮影は。まだ始まってないの?」
そんなマミヤのもとに、ベラが差し入れのアイスクリームを持ってバットとともにやって来た。
「ベラ!」
「ベラ先生!」
「?どうした?」
「それが・・・・」
「なるほど・・・いつきが急に行方不明。気になるな・・・」
「どうしたんスかねえ、いつもは勝手な行動とるようなコじゃないんスけど・・・」
事の顛末を聞いたバットとベラはやはりいつもの彼女らしくない行動に首をひねった。いつきはいつもメンバー内でも落ち着いた態度で周りをよく見て気配りのできる子だ。
成績も優秀で何よりマジメ。簡単に物事を投げ出す子ではないはずなのだが・・・
と、それぞれが考えに詰まった時、バットがいつきが座っていたというイスの下である物を発見した。
「ん?なんだコイツぁ?・・・なんだ?手紙?・・・え?・・ちょっ・・ちょっとコレって!おっ・・オイ!マミヤさん、ベラさん!ちょっとこの手紙見てくれコレ!」
それは小奇麗な封筒に入れられた小さな手紙だった。バットが慌てた様子でそれを差し出し、中身を確認する。中身をよんでマミヤとベラは全てを悟った。
「コレね」
「コレだな。いつきが飛び出して行った理由がわかった・・・」
普段利発ないつきを触発し、大胆な行動に出させた動機、そしていつきの性格を調べつくし、出し抜こうとする手口、それはもうあの組織以外に考えられなかった。
「地下ね、ベラ!」
「ああ、行くよみんな!いつきの居場所がわかった!」
「ええ!?」
「ホント?」
先生たちの号令に付き添いに来ていたプリキュアメンバーたちも色めきだった。
「おそいなぁ・・どこにいるんだろ?手紙のファンの人」
密かに楽屋に戻って衣装から私服に着替えたいつきは手紙に書かれた場所、地下駐車場の指定の場所でファンと名乗る人物を待ってた。
ダッシュでプレゼントだけ受け取ってスグに戻れば撮影に支障はないと考えたのだが、いつまでたってもファンの人の姿が見えない。時間のコトもあって小々焦りを覚えた頃に、いつきの耳に不意に飛び込んできた声があった。
「PCA21の明堂院いつきさんですね?」
「あ・・ハイ!あの、アナタがぼくに手紙をくれた人ですか!?」
背後から聞こえた声に振り返る。もうそこそこ暑くなってきた季節だというのにロングコートを着込んだ暑苦しい表情の見えない長身の男性が佇んでいた。
表情を伺おうとして、いつきはもう少しだけ近づいてお礼を言おうとしたその時だった。
「あ・・あの、今日はありがと・・・」
「キュアサンシャイン・・・なるほど可愛いものに目が無いとの情報は真だったようだな」
その言葉を聞いて、いつきの体に電撃が走った。
キュアサンシャイン、今確かにこの目の前の男はそう言った。
「あ・・あ・・な、なんで・・・その名前を・・・アナタいったい・・」
「フハハハハッ!愚か者め!まんまと我が策に引っ掛かるとはっ!」
高笑いとともにロングコートを脱ぎ棄てる、その下から現れたのはマントと鎧を着込んだ長髪の筋骨隆々とした男性だった。
「我が名はサーキュラス!ワルサーシヨッカー・ドツクゾーン部門・三部長が1人!キュアサンシャイン、我が社長サラマンダー・藤原氏の命により、キミをぎゅ〜ぎゅ〜のふにゃんふにゃんにしてくれる!」
「わっ・・罠だったんだね!ヒドイ!ぼく・・ぼく信じたのにっ!」
「わははははっ!あんないかにも怪しい手紙にひっかかるキミが悪いのだよ。さあ覚悟したまえ!」
「ゆっ・・ゆるせないっ!」
ぎゅ〜ぎゅ〜のふにゃんふにゃんがどんな状態なのかはよくわからないが取り敢えず自分に目の前の男が危害を加えようとしているのがわかったいつきは怒りを込めて叫んだ。
いや、それよりもなによりもあんな簡単な手紙に騙される自分にも腹が立った、可愛いものを使って自分を騙そうとした卑劣なやり方にも確かに怒りを覚えるが、あんな罠に引っ掛かった己の失策をいつきは深く悔いていた。
「変身だ!いくよポプリ!・・・って・・あ・・・」
しまった。
いつきはもう1つ痛いミスを犯していた。変身しようにもココにはポプリがいない。彼がいなければココロパフユームを使えず、変身するコトも出来ないのに・・・
「ククク・・妖精がいなくては変身も出来んか?勝機我にあり!来たれ!ザケンナーよ!」
紫の妖気がサーキュラスさんの呼びかけによって立ち上り、止めてあった車に憑依する。あっという間に何台かの車が重なり合い、車のザケンナーが姿を現した。
「ザーケンナァー!」
「う・・うわあぁっ」
驚くいつきに向かって猛然、ザケンナーはタイヤを走らせ、駐車場の中を疾駆する。変身できない今、いつきは逃げるしかない、しかしこのままではジリ貧である。
「ザケンナァーッ!」
「きゃあっ!」
「ハハハ!逃げるだけではどうしようもないぞプリキュアの少女よ!」
憎たらしいサーキュラスの笑い声が聞こえる。確かにそうだ。攻撃を避けるだけでは埒が空かない、何とかしなければ。そんなピンチのいつきに救いの手が差し伸べられた。
「いちゅきーーっ!」
「いつき!」
「大丈夫!?」
目に入ったのは、ポプリ、つぼみとえりか、シプレ、コフレ。それにラブやタルト、マミヤ、ベラの姿だった。バットも傍にいる。いつきはグッドタイミングの救いの手に飛びついた。
「よかったでしゅう〜!心配したでしゅ、いちゅきぃ〜〜っ!」
「ポプリ・・ゴメンね心配かけて・・みんなも・・・」
「よかったぜ、無事でよ」
「やっぱり、ワルサ―シヨッカーの仕業だったのね」
マミヤが化け物の隣に立っているマント姿の長身の男を一瞥して言う。それにサーキュラスは笑って返した。
「そちらがプリキュアのマネージャーの藤田麻美耶さんと戸田紅羅さんかな?オタクのお嬢様方もいと容易く策に落ちてくれるな。あんな手紙1つで惑わされて敵の術中にはまっていては、この先も詐欺などに容易に騙されてしまうぞ?」
そう言われて、サーキュラスを激しく睨みつけるマミヤとベラ。さぞや憤慨しているであろう彼女たちの口からサーキュラスに向けて言葉が発しられた。
「「どーもスミマセン。メンボクアリマセン」」
「って謝んのかーーーーいっ!!??」
バットがその行動に突っ込みを入れるのを尻目に、少女達はザケンナーに向き合った。
「いきますよみんな!」
『うん!』
『プリキュアの種、いくですぅ〜!』
『プリキュア!オープンマイハート!』
「チェインジプリキュア!ビートアーップ!」
「そして即ヘンシンかよ!?たまにはねえのか!?他の解決方法!」
そんなバットの切なる願いなど微塵に打ち砕き、光の中から変身した少女達が姿を現した。
「大地に咲く、一輪の花!キュアブロッサム!」
「海風に揺れる一輪の花!キュアマリン!」
「陽の光浴びる一輪の花!キュアサンシャイン!」
「ピンクのハートは愛あるしるし、もぎたてフレッシュ!キュアピーチ!」
「ザーケンナァーーッ!!」
「うるっせえぇっ!いい加減テメエがざけんな!!」
ザケンナーに対してバットが毒づいている間に、プリキュア少女たちが一斉に飛びかかった。
「やあーーっ!」
「たあっ!」
「とうっ!」
「えいっ!」
パンチやキックを飛び込みざまにビシバシと叩き込むプリキュア戦士達、まさに先制攻撃、化け物は大きく体勢を崩し、そのまま倒れ込・・・
「ザケンナーーーッ!」
なかった。
車のタイヤを利用して状態を沈めると、そのまま加速してプリキュア戦士たちに突進した。
『きゃあぁあっっ!』
ドカンッ!という音と共にプリキュア達が吹き飛び駐車場の地面に転がる。そこへさらに追い打ちをかけるかの如く迫るザケンナー。
「アカン!ピーチはん!ブロッサムはん!マリンはん!サンシャインはん!起きやぁーっ!」
タルトの叫びをあざ笑うかのように倒れているプリキュア戦士に突進するザケンナー、その前に1人の人物が立ちふさがった。
「ベラ!?」
「ベラ先生!?」
「あぶないっ!」
「ザケンナーーッ!」
「バカめ!生身でザケンナーに立ち向かうか!?」
化け物の前に立ちはだかったベラ先生に、教え子たちやマミヤが叫ぶが、ベラは冷静に飛び上がると、ザケンナーめがけて必殺の一撃を見舞った。
「蘭山紅拳(らんざんくれないけん)!ハアっ!」
いつきたちの心配をよそにベラの鋭い蹴りはザケンナーの顔部分を的確に射抜き、暴走していたザケンナーを見事横転させた。
「なっ・・何ぃ!?」
「今よ!みんな!」
「すっ・・ごぉ〜い、ベラ先生・・やっぱり強いんだウチの先生達って・・・よしっ!今よみんな!」
「はいっ!」
「うんっ!」
「りょーかいっ!」
「ブロッサムタクト!」
「マリンタクト!」
「シャイニータンバリン!」
「届け、愛のメロディー、キュアスティック・ピーチロッド!」
「「集まれ!二つの花の力よ!プリキュアフローラルパワーフォルテッシモー!!」」
「花よ、舞い踊れ!プリキュアゴールドフォルテバースト!」
「悪いの悪いの飛んでいけ!プリキュアラブサンシャインフレーッシュ!」
それぞれ召喚した魔法アイテムから放った必殺魔法がザケンナーを包み込み、大きく体勢を崩していたザケンナーを光が覆い尽くして浄化した。
「ザァ〜ケンナァ〜っっ」
「くぅっ・・あのマネージャーが強いなんて、聞いてなかったぞ!」
サーキュラスはそう言い残して、退散していった。
「いやぁ〜助かったよいつきちゃんが無事に戻ってきてくれてさあ!これで何とか撮影が無事に終わりましたよ、後はこれにレイさんのシーンを追加して、ケンシロウさんとのバトルシーンを撮れば終りです!いや〜ありがとう!なんとか来週の特命係長代理・稀野人新も放送できそうですよ!助かりました」
「そうですか、ホントに何よりです。こちらも途中でご迷惑をおかけしてしまってすみません」
上機嫌の監督に、マミヤは深く頭を下げた。
ザケンナーを倒した後、急いで撮影現場にもどったいつきは、突然いなくなったことを謝罪し、少々遅れながらも撮影は再開。
その後は監督に絶賛された演技を如何なく発揮し、リンとユリアの演技も加わって迫力のある演技が撮れた。監督もご満悦である。
ただ1つ気がかりだったのは・・・・
「ほわっちゃあぁーーーっっ!」
「ああっ!!いっ・・いいんですよケンシロウさん!もう壁を壊すシーンは撮り終えましたからっ!それにそこはセットじゃなくって本物の壁・・・ああっ!やめてっ!そこの鉄柱蹴らないでっ!」
「なんで人間の蹴りで鉄柱が針金みたいに簡単に折れるんだ?人間かこのヒトっ!?」
レイの相手役に選んだケンシロウが超人的な身体能力でちょっとばかり暴走し、セットばかりかスタジオの頑丈な建物まで破壊してしまったことだろうか。
「ス・・スイマセン・・・」
「い・・いえいえ・・で、いつきちゃんはドコに?ひと言お礼が言いたいんだけど・・・」
「ええ、私からも言わせて下さい!彼女のおかげでまたブンビーカンパニーが有名になっちゃいますよ!」
そう監督とブンビーさんにいつきの居所を聞かれて、実はもうロケバスの中だとは誰も言えなかった。
マミヤも、そしていかにも可哀想に・・・という顔で俯いてしまっているプリキュアメンバー達も・・・
みんないつきちゃんが今、ロケバスでどんな目に合っているかわかっているからだった。
「・・・・」
「・・・・・」
PCA21のロケバスの最後尾座席シートは、他のバスに類をみないほど広く作られてある。
五車プロモーションの特注品であるそれはまるでソファのようだ。コンサートやドラマの収録で体調を崩した子などをゆっくりと休ませるのが本来の目的であるが、もう1つ別の目的でよく使われることがあるのを、プリキュアメンバーの少女達は体験を通してよく知っていた。
今、明堂院いつきは、そのシートの前でベラ先生を前にして、カラカラと喉が渇き、待ち受ける恐怖にからだがガクガクブルブルと震えるのを止めることができなかった。
久々に見る、ベラ先生の怒った顔である。
「いつき・・・先生に言わなきゃならないコトあるんじゃないか?」
「は・・はい・・えっと・・その・・」
「今日、アナタは何をした?」
「・・・ドラマの・・撮影・・です・・」
「そうだな。その撮影は成功したか?」
「・・い・・一応・・・」
「そう・・・本当に、そう言えるんだな?」
そう射るような瞳で正面から見つめられ、ついにいつきはふるふると力なく首を振った。そして震える唇でぽつりぽつりと言葉をきる。
「じゃあ、今日自分が何をしたのかわかってるな?」
「・・撮影現場・・ほうり出しちゃいました・・・」
「そうだな。それはどうして?」
「ファンの人から・・・手紙だと思って・・その、行かなきゃ悪いと思って」
「いつき、正直に言いなさい。本当にそうなの?何か別の物が欲しかったんじゃないか?」
ああ、ダメだ。
やっぱりベラ先生には何を言い訳にしたって、自分の本心は暴かれてしまっている・・・。
いつきは半泣きの顔でゆっくりと白状しはじめる
「か・・可愛いぬいぐるみ・・あって、欲しくなったんです・・」
「そうだね。でもそれでお仕事を放り出すのはどうなの?」
「・・・・いけない・・コト・・です」
「そうだ。それに、PCAのルールにもあるな。例えファンからのプレゼントでも一度先生達に見せてから、と。どんな危険があるかわからないから・・覚えてるな?」
「・・・ハイ・・」
「それも破った、今日のいつきは、イイコだったか?」
「うっ・・うぅ・・悪い・・コ・・でしたぁ・・」
「じゃあ、悪いコはプリキュアのルールで、どうなる?」
ついに身に迫った久しぶりの悪夢。
いつきはわかってはいても震えてなにもできず、動けもしないでその場から微動だにしなかった。そのいつきの体を引き寄せて、強引にいつきの腰に手を回した。
「今日は、スカートだねいつき。いつもより、手間がかからないっ!」
「やっ・・ヤダ!先生っ・・お願いっ!ごめんなさいっ!ゆるしてくださいっ!もうしませんからっ!だから・・・」
「静かにっ!やったことの代償はキッチリ反省しなきゃならないんだ!知ってるだろう?」
「でも・・でもぉ・・・」
あっという間にいつきのスカートの後ろから手を滑らせ、そのままいつきのパンティに手をかける。ゆっくり抜き取るようにそれを膝小僧のあたりまで下ろしてそれから膝の上に寝かせた。
普段、あまり叱られる率の高くないいつきの、久しぶりの体勢である。スポーティに健康的で引き締まりつつも柔らかでぷるん、としたいつきの可愛らしいお尻がベラの前にさらけ出される。
「しっかり反省しなさい。反省できるまで、先生お尻ぺんぺん止めないからな」
「ひっ・・ひっ・・お願いっ!痛くしないでえぇっ!」
「・・・痛く・・する!」
ぱしいぃ ーーー ん っ !
乾いた音、1発。いつきの丸出しになった可愛いお尻にベラの平手が炸裂した。「ひいぃぃっ」と必死に噛み殺した悲鳴が漏れる。
ぱんっ! ぱんっ! ぺんっ! ぱちんっ! ぺちんっ! パァンッ! ペンッペンッ! ぴしっ! ピシッ! ぴしぃーーっ!
「あっ・・あうぅっ・・きゃうっ・・きゃんっ!・・やっ・・ああっ・・やっ・・やあぁぁっ・・うああぁぁっ」
噛み殺そうと思ったが、瞬時にいつきは無理と思った。
マミヤの痛さともレイナの痛さとも違うお尻に走る衝撃。マミヤの熱さとレイナの鋭さがちょうど同時に加わったような、そんななんともいえない痛み。
まさに電撃の激痛だった。
痛い。たまらなく痛いっ!
パシィンッ! ペシィンッ! ペンッ! ペンッ! パンッ! パンッ! ぴしゃっ! ぴしゃんっ! ピシャンッ!
「きゃっ!ああっっ・・ああぁぁんっ!・・ひいぃっ・ひっ!いいぃぃっ・・せっ・・せんっ・・せっ・・やめてっ!やめてよぉっ!・・こんなの・・こんなのないよぉっ!・・ぼくもう中学生なのにぃぃ〜〜っ・・」
「関係ない!悪い子だからお尻をこうしてぶたれるんだろう?ホラ!じっとしなさいっ!」
ばしっ! バシッ! べしっ! ベシンっ! びしっ! ビシッ! びしーっ! バッシーーンッ!
「きゃあぁあんっっ・・いたっ・・たぁいっ・・・痛いっ!いたあぁいっ・・いやあぁっっ・・やんっやんっやあぁんっ・・ふええぇっ・・せんせ・・痛い・・いたぁいよぉぉ・・」
「痛いのは当たり前だ!ホラ、お尻逃げない!なんでこうやって叱られてるか考えなさいっ!」
ぱあぁんっ! パァンッ! ぺんっ! ペーンッ! ばしっ! びしっ! ぴしゃんっ! ピシャーンっ!
「ひぎいぃっっ・・ぎゃあぁっ・・ひぎゃあぁっ・・やあぁぁんっ・・きゃうっきゃううぅぅっ・・いだああぁっっ」
「全く、ちょっと目を離したら・・なんでルールがしっかり守れないんだ?先生達がどれくらい心配したと思ってる?どれだけみんなに迷惑かけたと思ってるんだ!?いつき!聞いてるのか!?」
「ああぁ〜〜んっ・・だってだってだってぇ〜〜・・ぬいぐるみ欲しかったんだもぉんっ!」
ぱしっ! ぺしっ! ばちんっ! べちぃんっ! ばっちぃ〜んっ! ベッチィ〜ンッ!
「きゃあぁああっっ・・痛いっ!いたいいたいいたいいたいいぃぃ〜〜・・うわあぁ〜〜〜んっっ」
「欲しかったら仕事も投げ出して、監督さんやスタッフの人にも迷惑かけて、心配させるのか?そんな自分勝手は許さんっ!」
ぱしぃんっ! ぺし〜んっ! ぴしゃっぴしゃっぴしゃあ〜んっ!
「うえええぇ〜〜〜〜えぇんっっ・・いだぁい・・いだいよおっいだいよおっ!・・ごっ・・ごめんなさぁ・・いっ・・も・・しませぇぇ〜〜んっっ」
「二度とこんなことがないように、今日はいつきのお尻を真っ赤っかにするからね!」
「びええぇ〜〜んっ・・やっ・・やあぁぁ〜〜〜んっっ」
いつきはもはや涙をとめどなく迸らせて泣き叫んでいた。普段の彼女からは想像も出来ないくらい、足をバタバタさせ、手を振り回し、すこし長めのショートヘアを振り乱し・・
お尻が痛くて痛くてもうなにも考えられなかった。
すでに真っ赤なベラの手形がいくつもいくつも折り重なり、紅葉の木よろしく真っ赤っかに染まってひとまわりほど大きく腫れ上がっている。
そのハレた可愛そうないつきちゃんのお尻にベラ先生は必殺の一撃を見舞うべく、手にハア〜・・と息を吐きかけた。
「裸臀紅拳(らでんくれないけん)!」
説明しよう!
裸臀紅拳とは!蘭山紅拳伝承者のベラが、マミヤ達と同じく悪い子になった時のプリキュア戦士のお嬢ちゃまたちを懲らしめるべく編み出した必殺の仕置き拳法である。
動きは風に舞う花びらの如く優美華麗!しかし、その実態は、喰らった子ども達のお尻を真っ赤っかに染めてハレさせ、3日3晩にわたってお尻の痛みに苦しませることもあるという、残忍獰猛な破壊力を秘めた必殺拳である。
ぴしゃっ! ぴしゃっ! ピシャンッ! ピシャンッ! ピシャンッ! ぴしゃあぁーーーーんっっ!!
「ぎゃあぁぁ〜〜〜〜んっっ・・ひぎゃあぁぁ〜〜〜んっっ・・びええぇぇ〜〜んっ・・ええぇぇえぇ〜〜〜んっっ」
「いつき、よく頑張ったね。エライよ。イイコになれたね」
「えっ・・ええっ・・えっく・・ひぐっ・・ぐしゅっすんっすんっ・・ぐすっ・・ひいぃっく・・」
たっぷり叱られた後、メンバー達もバスに戻って来て、バスが走り出しスタジオへと向かう。そんな中、もうみんな帰ってきているというのにいつきだけはまだそんなコトも気に留める余裕なく、お尻を出したままベラ先生に甘えて泣いていた。
真っ赤にハレちゃった可愛そうなお尻。
じんじんひりひりと熱を持ったように痛み、その痛いお尻をゆっくり優しくベラ先生が撫でてくれる。
「いつきちゃん、まだ泣いてるね・・」
「仕方ないじゃん、あんなお尻にされちゃってさ・・あれじゃイタイはずだよ・・ああ〜・・見てるだけでコッチもお尻がムズムズしてきちゃうっ!」
「いちゅき〜・・大丈夫でしゅう?」
「うえぇ・・え・・ぽぷ・・り?・・ゴメ・・んなさいぃ・・みんなに、いっぱい心配かけて・・」
「そうよ、たくさん心配したのよ。いつき、もうこんなコトしちゃダメよ?アナタには、先生達も期待してるんだから」
「ハ・・ハイ・・ぐすっ・・ひっく・・ゴメンなさい・・」
そんないつきにプリキュアメンバーはニッコリ笑って飲み物やお菓子を差し入れた。それともう1つ。
「いつき・・・そう言えば、先生お土産買って来たんだよ」
「え?」
「もちろん、メンバーの子全員に、ハイ。アナタはコレ」
「あ!コレっ!」
そう言ってベラ先生が取り出したのはいつきが欲しかったあの写真にも映っていたぬいぐるみだった。
「せ・・先生?」
「・・・よくがんばったな。ご褒美v」
「・・・・先生・・・」
「ん?」
「・・・ありがとう!先生大好き!」
そう言っていつきはベラに飛びついた。他のメンバー達も「わたしのは?」「お土産なぁに?」とまるでエサをねだる小鳥のようにベラ先生に飛び込んだ。
数日後。
「うわあぁ〜〜・・いつきちゃん上手!」
「ホントに!ヤバイなぁ〜・・アタシもうかうかしてたらドラマの出番とられちゃうかも・・」
「そんな・・なぎささんまで・・オーバーです」
出来上がった今週の「特命係長代理・稀野人新」はPCA21の明堂院いつきの出演効果もあいまって、視聴率がグーンと伸び、なんといつき役の空手少女サクラはドラマレギュラーが決定。
メンバーはみんな自分のことのように喜んだ。
「そう言えばケンシロウ先生も出てたよね!再登場の依頼ってきたの?」
「いや・・・そんな話は聞かん。一度連絡してみたがなぜか切られてしまったのだ」
「へぇ〜、そうなの。なんでかしらね?」
夢原のぞみと蒼野美希の素朴な疑問に、真相を知るバットとマミヤは俯いた。
(あんだけモノぶっ壊してりゃだれだって呼びたくなくなるだろう)
「ケーーーンッ!大変!」
「海外ロケで野生動物のドキュメンタリーを撮る役者さんがケガしちゃったの!お願い!ケン!出て!」
「ちょっとユリアさん!アタシがケンに頼んでるんだからジャマしないでください!」
「なによケンは私の運命の人よ!」
「今どき運命の人?ハ!ださいっての!」
「何よこのマセガキ文句あんの!?」
「ああ、俺でよければ行こう」
突然恒例化したユリアとリンの乱入からのケンシロウへの頼みごとに、今度は心の中じゃなく、声に出して突っ込んだ。
「もおぉケンはテレビに出すんじゃねえええぇえーーーーーーっっっ!!」
撮 影 で
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伝 承 者
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